7月20日は「土用の丑の日」。専門店だけでなく、スーパーやコンビニでも「うなぎ」を大々的に販売しているが、水産資源としてのうなぎは危機に瀕している。うなぎを名物にする静岡?三島の専門店では、うな丼の並を今年から4000円に値上げした。10年前のほぼ倍の価格だが、利益はほとんどない。良心的な専門店ほど苦しむ現状とは――。
静岡県?三島市「元祖うなよし」のうなぎ丼(並)。今年の販売価格は4000円(税抜き)となった。(写真提供=元祖うなよし)

ニホンウナギの稚魚「シラスウナギ」の価格高騰

今年は7月20日が、夏の「土用の丑の日」に当たる。うなぎが最も脚光を浴びる日だ。

だが、近年はニホンウナギの稚魚「シラスウナギ」の価格高騰で、小売価格の値上げが続き、気軽に食べられなくなった。昨年12月と今年の1月も不漁となり、以前のような「夏の風物詩を味わう」とのんびり構えるわけにもいかない。

こうした厳しい状況において、うなぎを地元の名物としてきた地域はどうすればいいのか。今回は静岡県三島市の現状に焦点を当ててみたい。

10年前に「天然うなぎ不使用」を決定

「うなぎを取り巻く環境が激変し、私ども“うなぎ屋”は厳しい状況のなかで商売をしています。でも、これまで手をこまねいていたわけではありません。微力ながら『自分たちで何ができるか』も考えて議論し、行動に移してきました」

「三島うなぎ横町町内会」(以下、町内会)の会長で、地元の名店「元祖うなよし」社長の関野忠明氏はこう話す。関野氏は、大学院で水産学を専攻し、博士前期課程を修了後、うなぎ業界に入った。他店での修業後、家業を継ぎ、社長職に就いた。業界歴は約40年だ。現在は三島商工会議所の部会長も務める。放送メディアに出演して、業界の現状を話すこともある。

町内会が発足したのは2006年5月で、現在は市内の21店舗が加盟する。当初、この会を立ち上げた目的は2つあった。ひとつは「三島うなぎと三島市の知名度向上」、もうひとつは「将来起こると予想された天然ニホンウナギの枯渇問題への取り組み」だった。

「個人経営の店が大半なので、個人レベルではなく団体としての対応を議論して、行動に移していったのです。たとえば2008年に、町内会の加盟店では『天然うなぎを扱わない、買わない』を全会一致で採択。これは産卵場へ返す、親うなぎの数を増やすためです。2010年には『うなぎサミット』というイベントを三島市で開催し、天然うなぎ不使用や親うなぎの保護を決議しました」(関野氏)

1960年代から「完全養殖」に取り組むが……

少し説明が必要だろう。私たちが食べるうなぎは、今やほとんどが養殖だ。だがうなぎの完全養殖はむずかしい。実際には、稚魚として天然のシラスウナギを捕獲し、養鰻場と呼ぶ養殖池で育ててから出荷する。つまり稚魚の生産は天然資源に頼っているのだ。

「完全養殖」の研究は長年行われている。「うなぎに卵を産ませる」研究は1960年代から始まり、1973年には北海道大学で世界初の人工ふ化に成功している。2010年には独立行政法人「水産総合研究センター」(現?国立研究開発法人「水産研究?教育機構」)が、うなぎの完全養殖の実験に成功した。この手法は、(1)親うなぎから受精卵を採取して人工的にふ化→(2)仔魚、シラスウナギを経て成魚に育てる→(3)成魚のオスとメスから人工授精→(4)受精卵を人工的にふ化……を繰り返すことで、天然資源に影響を与えずにすむサイクルだ。

天然資源に影響を与えない「ウナギ完全養殖」のイメージ図。田中秀樹氏の発表資料より。

時間がかかる「完全養殖の実用化」

むずかしいのはこの先だ。元水産研究?教育機構グループ長の田中秀樹氏が解説する。

「実際の養殖に役立てるには、シラスウナギを大量生産する技術の確立が必要です。これが実現して量産化となれば、養殖用のシラスウナギの一部を完全養殖うなぎでまかなえる。この数字が増えるほど、天然資源への影響を減らすことができるのです」

つまり完全養殖は、実験レベルでは成功したが、大量生産が実現していないのだ。今年7月17日、「水産研究?教育機構」は、機構内の施設で育てたシラスウナギ約300匹を民間の養鰻業者に提供することを発表した。実用化を念頭に置き、養鰻業者が1年間養殖し、体長や体重の変化といったデータを提供してもらうという。

一方、業界団体である日本鰻協会は、2012年に「母なる天然うなぎを守ろう」というポスターを制作して加盟店に掲示。一般消費者に訴求した。その2年後となる、2014年には、国際自然保護連合(IUCN。本部はスイス)が、絶滅の恐れがある野生動物を指定するレッドリストに「ニホンウナギ」を加えた。レッドリストには法的効力はない。だが「うなぎの危機」は国際的な問題として注目を集めるようになった。

1960年代から「完全養殖」に取り組むが……

少し説明が必要だろう。私たちが食べるうなぎは、今やほとんどが養殖だ。だがうなぎの完全養殖はむずかしい。実際には、稚魚として天然のシラスウナギを捕獲し、養鰻場と呼ぶ養殖池で育ててから出荷する。つまり稚魚の生産は天然資源に頼っているのだ。

「完全養殖」の研究は長年行われている。「うなぎに卵を産ませる」研究は1960年代から始まり、1973年には北海道大学で世界初の人工ふ化に成功している。2010年には独立行政法人「水産総合研究センター」(現?国立研究開発法人「水産研究?教育機構」)が、うなぎの完全養殖の実験に成功した。この手法は、(1)親うなぎから受精卵を採取して人工的にふ化→(2)仔魚、シラスウナギを経て成魚に育てる→(3)成魚のオスとメスから人工授精→(4)受精卵を人工的にふ化……を繰り返すことで、天然資源に影響を与えずにすむサイクルだ。

天然資源に影響を与えない「ウナギ完全養殖」のイメージ図。田中秀樹氏の発表資料より。

時間がかかる「完全養殖の実用化」

むずかしいのはこの先だ。元水産研究?教育機構グループ長の田中秀樹氏が解説する。

「実際の養殖に役立てるには、シラスウナギを大量生産する技術の確立が必要です。これが実現して量産化となれば、養殖用のシラスウナギの一部を完全養殖うなぎでまかなえる。この数字が増えるほど、天然資源への影響を減らすことができるのです」

つまり完全養殖は、実験レベルでは成功したが、大量生産が実現していないのだ。今年7月17日、「水産研究?教育機構」は、機構内の施設で育てたシラスウナギ約300匹を民間の養鰻業者に提供することを発表した。実用化を念頭に置き、養鰻業者が1年間養殖し、体長や体重の変化といったデータを提供してもらうという。

一方、業界団体である日本鰻協会は、2012年に「母なる天然うなぎを守ろう」というポスターを制作して加盟店に掲示。一般消費者に訴求した。その2年後となる、2014年には、国際自然保護連合(IUCN。本部はスイス)が、絶滅の恐れがある野生動物を指定するレッドリストに「ニホンウナギ」を加えた。レッドリストには法的効力はない。だが「うなぎの危機」は国際的な問題として注目を集めるようになった。

「うなぎ丼の価格は、シラスウナギの『養殖用池入れ価格』で決まるといえます。10年前、2008年当時のシラス価格は、1kg当たり10万~80万円。当店が生きた成魚を仕入れる活鰻価格が1kg当たり1850円で、ウチの店は、うなぎ丼(並)を2100円(税込み)で提供しました。それが、2010年から4年間、第一次シラスウナギ大不漁が起き、シラス価格は30倍までに暴騰。活鰻価格も3倍に高騰しました。このため当店も2014年にはうなぎ丼を3300円、さらに2015年には3500円に値上げせざるを得ませんでした」(関野氏)

関野氏が説明した数字を整理すると、以下のようになる。

?2008年
シラス価格:1kg当たり10万~80万円
活鰻価格:1kg当たり1850円
うなぎ丼(並):2100円
?2010年~2015年
シラス価格:1kg当たり250万~300万円
活鰻価格:1kg当たり5400~5700円
うなぎ丼(並):3300円~3500円

仕入れ価格が高騰するなか、関野氏は利幅を削って価格を抑えたが、間接経費や人件費の上昇も加わり、うな丼は「高値の花」となってしまったのだ。

うな丼は「並で4000円」の時代に突入

今年になって、第二次シラスウナギ大不漁となり、シラス価格は1kg当たり400万円、活鰻価格は1kg当たり6000円となった。全国のうなぎ店が値上げに追い込まれ、元祖うなよしも、「うなぎ丼(並)」を4000円とした。

「三島全体としてお客さまの声で多いのは、『こんな時代だからしょうがないよね』ですが、厳しい声も目立ちます。『うなぎが小さくなった』『以前は家族で来られたけど、もう全員では来られない』『これからはスーパーで買って食べる』という声もありました」

対応に苦慮しているのは専門店だけではない。ファミリーレストランの「ロイヤルホスト」は、持ち帰り限定のうな重について「十分な量を確保できない」として販売中止を決めた。他の飲食店や小売店でも値上げが相次ぎ、その結果“うなぎ離れ”が起きている。ある量販店では、昨年に比べてうなぎの販売額は3割減だという。

「関係者一丸」ができない理由

なぜもっと前から、うなぎの資源保護に取り組まなかったのか。そう思うのも無理はない。だが調べてみると、当事者はそれぞれの立場で対策を進めていたことがわかる。たとえば、うなぎの成魚を太くする「太化」(ふとか)に取り組み、一定の成功をおさめた例もある。1匹当たりの重量が大きくなれば、かば焼きにする容量も大きくできる。量と質を両立させるため、地道な取り組みが続く。

それでも「全体最適」にはならず「部分最適」の活動にすぎない。個人店が多く、日々の商売を営む「うなぎ店」が、商売を離れて、国内外の生産業者と連携することは簡単ではない。大手小売業も資源保護を意識した取り組みを進めているが、抜本的な解決策とはいえない。この問題を突き詰めると「水産行政」の問題に行き着く。

「外食」としてのうなぎの位置づけが変わる

うなぎ店には厳しい言い方になるが、ここまで価格が高騰してしまうと、「外食店」としての位置づけもむずかしくなる。今や、前菜から主菜、スイーツまでのコースが4000円という飲食店は珍しくない。「うなぎは食べたいが、そこまで支払うか」という消費者心理を考えれば、これ以上の値上げはむずかしいだろう。

「私どもの立場では、ご来店いただいたお客さまに、きちんとした調理と接客で『うなぎの魅力』を伝えていくしかありません」(関野氏)。元祖うなよしでは、ランチタイムに「ミニうなぎ丼」も提供し、“消費者と本格うなぎの出合いの場”もつくりだそうとする。

昔のような“儲かる夏”は過去の出来事――と関係者が話す「うなぎの現状」。今年の夏は厳しい暑さに見舞われているが、「土用丑の日」の厳しさはそれ以上かもしれない。